甲状腺機能亢進症とは
甲状腺ホルモンは分泌が一定量になるように甲状腺刺激ホルモン(TSH)によってコントロールされていますが、甲状腺機能亢進症になると甲状腺ホルモンの分泌が過剰になって、血圧上昇、心拍数増加、発汗やほてり、手のふるえ、イライラなど様々な症状を起こします。心臓や血管に負担がかかりますので、できるだけ早く発見して適切な治療を受けることが重要です。甲状腺機能亢進症は自己免疫疾患であり、バセドウ病や甲状腺炎・甲状腺の腫瘍などに分けられます。なお、甲状腺中毒症のほとんどは甲状腺機能亢進症に含まれます。
バセドウ病
甲状腺機能亢進症の代表的な病気であり、この病気を発見した医師の名前からバセドウ病(バセドー病・バセドウ氏病)と呼ばれています。甲状腺組織を攻撃する自己抗体ができ、それによって甲状腺ホルモンの分泌が異常に増加します。新陳代謝が異常に促進され、頻脈、多汗やほてり、手のふるえ、甲状腺の腫大などを起こし、眼球突出という特徴的な症状が現れることもあります。男性よりも女性が発症しやすく、幅広い世代に発症しますが、20~30代の比較的若い世代の発症が多い傾向があります。
バセドウ病の原因
甲状腺細胞TSH受容体に対する抗体が作られてしまい、それによって生じる自己免疫疾患です。自己抗体によって甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身に様々な症状を起こします。
バセドウ病の症状
代表的な症状に甲状腺の腫大・頻脈・眼球突出がありますが、この3つの症状が起きないまま、他の症状が生じるケースもあります。他の症状には動悸・息切れ、多汗、手足のふるえ、体重減少、疲労感、イライラ、不整脈、むくみ、下痢などがあり、症状の内容や強さには個人差があります。バセドウ病を放置してしまうと、複数の臓器の機能が大幅に低下する甲状腺クリーゼを起こし、命に危険が及ぶ可能性もあります。気になる症状がありましたら、お早目に当院までご相談ください。
全身 | 暑がる、疲れやすい、だるさ、微熱、体重減少 |
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表情・首 | 目つきが悪くなる、眼球突出、甲状腺腫大 |
神経・精神症状 | イライラ、落ち着かない、不眠、集中力低下 |
循環器症状 | 動悸、頻脈、むくみ、心不全、心房細動、息切れ |
消化器症状 | 食欲亢進、喉の渇き、軟便・下痢 |
皮膚症状 | 脱毛、かゆみ、発汗・多汗、皮膚が黒っぽくなる |
筋・骨症状 | 筋力低下、脱力感、骨粗鬆症、手足のふるえ、周期性四肢麻痺 |
月経 | 月経不順、無月経、不妊 |
バセドウ病に伴う疾患
眼球突出
眼球の筋肉や後方の脂肪組織には甲状腺と同様にTSH受容体が存在することから、抗体の刺激によって炎症による浮腫などが起こり、眼球が突出すると考えられています。甲状腺ホルモン分泌の過剰を治療で改善しても、眼球突出が改善されるとは限らず、眼球表面の角膜が傷付く可能性がある場合などでは、眼球の突出を改善するための治療が必要になるケースがあります。
眼瞼後退
まぶたの筋肉が緊張して収縮し、まぶたがつり上がって上部の白目部分が大きく見えます。ドライアイなどの発症・悪化リスクが高くなりますので適切な治療が必要です。甲状腺ホルモンの分泌過剰が治療で改善すると眼瞼後退の症状も改善に向かいます。
複視
眼球を動かす筋肉に炎症を起こして浮腫を生じ、左右の眼球をバランス良く動かせなくなってものが二重に見えてしまう状態です。なお、片目で見た場合には二重にはなりません。
心疾患
頻脈や血圧の上昇などによって心臓に大きな負担がかかり続けますので、不整脈や心不全を起こす可能性があります。できるだけ早く治療を開始して、甲状腺ホルモンの過剰な分泌を改善することが重要です。
甲状腺クリーゼ
甲状腺機能亢進症の治療をせずに感染症にかかる、手術や抜歯などの大きなストレスがきっかけとなって起こることがあり、様々な臓器の機能低下を起こして高熱や下痢・意識混濁・頻脈・心不全など命の危険につながる重篤な症状を起こすこともあります。甲状腺機能亢進症と診断された方は適切な治療を受け、甲状腺ホルモンを正常値に戻し、それを維持していくことが大切です。
周期性四肢麻痺
甲状腺ホルモン値が高い状態のまま、暴飲暴食や激しい運動を行うと低カリウム血症を起こして全身の筋力が突然失われ、手足を動かせなくなる四肢麻痺を起こすことがあります。軽度であれば安静に過ごすことで再び動けるようになりますが、治療が必要になるケースもあります。また、周期性四肢麻痺を起こさないために、甲状腺の治療をしっかり行うことに加え、炭水化物や塩分の摂取が制限されることもあります。周期性四肢麻痺は若い男性の患者様に起こりやすい傾向があります。
高血糖
甲状腺ホルモン値が異常に高い状態になると血糖値も高くなります。この場合甲状腺のホルモン値を正常に保つ治療を行うことで、血糖値も正常な状態に戻ります。
骨粗鬆症
甲状腺ホルモン分泌が過剰になると代謝が異常に活発になり、骨代謝も亢進して骨密度が減り、骨がもろくなる骨粗鬆症を発症することがあります。特に閉経を迎えた女性は女性ホルモン分泌低下によって年々骨密度が低下し続けますので、発症・悪化のリスクが高くなってしまいます。治療で甲状腺ホルモンの分泌が正常になると、骨密度も回復します。
他にも、爪の変形、皮膚の白斑、脛骨前粘液水腫などの症状を起こすことがあります。また、悪性貧血、結合組織疾患、多腺性機能不全症候群といった合併症を起こす可能性もあります。
バセドウ病の検査と診断
血液検査で、甲状腺ホルモン(FT3・FT4)値が高い、または甲状腺刺激ホルモン(TSH)の値が低く、自己抗体であるTSH受容体抗体(TRAb)が陽性だった場合にバセドウ病と診断されます。
バセドウ病の治療
薬物療法・アイトソープ治療・切除手術があり、最初は血液中の甲状腺ホルモンの合成を抑える抗甲状腺薬を使った薬物療法を行います。甲状腺ホルモンの状態が正常範囲になり、状態が安定してきたら減薬を試みますが、再発予防のための維持療法も必要です。この治療による副作用には顆粒球減少症があり、かなり稀に重篤な状態になる危険性がありますので慎重な処方と経過観察が不可欠です。
薬物療法では十分な効果を得られない場合や、副作用が懸念される場合、またはできるだけ短期間に状態を改善させたい場合にはアイソトープ治療や切除手術を検討します。
バセドウ病と遺伝
バセドウ病の発症には遺伝の関与が指摘されており、バセドウ病のある方の子どもは、バセドウ病のない方の子どもに比べてバセドウ病になる確率が約6~10倍になるとされています。ただし、必ず遺伝するものではなく、ストレスや感染症など他の原因も関与して発症すると考えられています。